カベラボ
TRPG
HOMETRPG>リプレイ
「サクラガミ」リプレイ 導入
Scene1.桜月夜に−導入
 ある町の、小高い丘の上に、大きな桜の木があった。
 その桜の木には、「サクラガミ」が住んでいるのだと、若者たちの間で噂されていた。月の夜、その桜の下で愛を誓ったカップルは幸せになる、というのである。
 その日も、少女が一人、クラスメートの男子と、桜の下で待ち合わせをしていた。少女は待ち合わせの場所へ、月明かりを頼りに道を急ぐ。
 桜の木の下には、黒く浮かぶ少年のシルエット。その影は少しおぼろに霞んで見える。
 少女がやってきたことに気づいていないのか、ぴくりとも動かない少年。少女が声をかけても、何の反応もなし。少し不安になりながら、少女がさらに近づくと……。
 彼にかかっていた霞のようなものは、実は無数の、白くて細い蜘蛛の糸であった。
 あまりの出来事に悲鳴をあげ、尻餅をつく少女。地面についた少女の両手に、かさかさと、何か小さな生き物の感触があり、驚いて地面に目を向けた少女の視界は、いつの間にか小さな蜘蛛で埋め尽くされていた。
 少女は声を限りに叫んだが、夜の闇に飲み込まれ、誰にも届きはしない。
 そして、桜の木の上からゆっくりと、月明かりに照らされながら、巨大な蜘蛛が少女に覆いかぶさってゆくのであった。
Scene2.森部蛍と藍原愛鶴−導入
PC1 森部蛍…18歳、男。表の顔は学生。信念は情。
特技:≪砲術≫≪歩法≫≪骨法術≫≪用兵術≫≪異形化≫≪呪術≫
忍法:【接近戦攻撃】≪異形化≫【赤腕】≪骨法術≫【影法師】≪歩法≫【狭霧】【頑健】
背景:【末裔】【戦闘狂】
PC2 藍原愛鶴…16歳、女。表の顔は学生。信念は忠。
特技:≪針術≫≪拷問術≫≪生存術≫≪調査術≫≪見敵術≫≪呪術≫
忍法:【接近戦攻撃】≪拷問術≫【禍供犠】≪可変≫【かばう】【真蛇】【頑健】
背景:【末裔】【有名】
 藍原愛鶴は、変な奴である。
 いつも真顔で、表情はほとんど変わらない。それに、自分のことを藍原愛鶴と呼び、相手のこともフルネームで呼ぶ。おまけに、特殊な能力を持った魔術師である。
 難しいかもしれないけれども、実際難しいのだけれども、まあ、簡単にいうと沢山の藍原愛鶴がいて、それは枝分かれした可能性の藍原愛鶴であって、そういうのを呼び寄せるのが藍原愛鶴の力なのである。
 だから、藍原愛鶴はたくさんいる。
「森部蛍。藍原愛鶴はその包帯を前々から謎に思っているのです。なんなのですか、その包帯は。怪我をしているようにも見えません。」
 放課後の教室で、愛鶴は蛍を、じぃっと見つめながら言う。真顔である。
 平行世界から藍原愛鶴を呼び寄せる、いわゆる、平行世界を行き来する、魔術師。
 普通ならドン引きするか鼻で笑うか、とにかくまともに取り合うはずのない設定だが、森部蛍にはこの同級生を無視できない理由があった。
 彼にもまた、常に左手に包帯を巻いていて、おまけに忍者であるという、これまた一般人ドン引き間違いなしの設定が、事実としてあるからだ。
 骨法術に長けた忍者集団、森部一族の末裔であり、左腕は包帯により封印されている。
 他人に語るかどうかという違いはあれど、愛鶴も蛍も、中二設定はいい勝負なのであった。
「なーに?藍原。そんなに気になる?」
「はい、そんなに気になるです。藍原愛鶴は森部蛍の包帯が大変気になっております。」
「もしやアレですか。いまでもちゅうにびょうなるものを引きずっているのですか。」
「中二病……ってなんだっけ? なーんか聞いた覚えあるけど覚えてないんだよなー。覚えはあるけど覚えてないってこれ如何に?」
「脳の老化です。森部蛍は脳を取り変える必要があると藍原愛鶴は認識しました。」
「あるぇー?(・3・)」
  無表情に、淡々と話す愛鶴に、軽い口調で答える蛍。いつもの光景だ。
「じゃなかった。お前こそ、その喋り方疲れない?」
「??藍原愛鶴は大体42人目の藍原愛鶴からずうっとこんな話し方です。ちなみに85番目の藍原愛鶴は自分のことを『私』と呼びます。イレギュラーです。」
「前から思ってたけどお前って不思議ちゃんだよなー。」
「森部蛍こそ、包帯。」
 よほど蛍の左腕に巻かれた包帯が気になるらしい。
「……包帯か。」
「はい。」
 こくこく。
「んー……アレだよ、アレ。男の子の秘密って奴?」
「!!!たいへん!きょうみを!そそられますい!!」
 ますい。
「ほら、思わず噛んじゃったじゃないですか。」
「お前のそういうところ可愛いよなー。ま、そのうち教えてやるよ。そのうち。」
「約束です。森部蛍、藍原愛鶴と約束です。」
 小指を差し出す愛鶴。
「はいはい、ゆーびきーりげーんまーん。」
「うーそついたら覚悟ーしろー。」
「覚悟しろ!? そんなんだっけ!?」
「森部蛍は軽薄そうなので、藍原愛鶴がちゃんと見ておいてあげます。だから嘘付いたら覚悟しろなので、す!」
 最後のところだけちょっと強めに愛鶴は言う。嘘をついたら何をされるのか、はっきりしないのが逆に怖い。
「う、うん。ゆーびきったー。」
「きったー。」
 愛鶴が心なしかちょっと微笑んだ、ようだった。普段表情の変化がほとんど無いので、このへんがわかりにくい。
「あ。」
「ん?」
「68番目の藍原愛鶴が『GMがかわいそうだからサクラガミの話をしろ』と言っているようです。そんなわけで、この99番目の藍原愛鶴とサクラガミの話をしましょう。」
 おい68番目、帰れ。
「明日ぐらいには忘れてそうな設定だなー、それ。そうそう、サクラガミだよサクラガミ。藍原は知ってる?」
 どこからかカンペを取り出す蛍。メタい言動は謹んでいただきたいものである。
「多分明日には忘れていると思います。1番目はポンコツなのです。藍原愛鶴は存じ上げないのです。森部蛍は……。」
 蛍の持つカンペを覗きこんで、愛鶴はため息をもらす。
「あー……。」
「サクラガミの前に神隠しだな。神隠し騒動が起きてるって知ってるか? 例えば、三組の宮中と那珂さんとか。」
「1年のあいだでも帰国子女の金剛さんが神隠しにあったとかなんとかです。」
「そうそう、比叡と一緒に神隠しにあったってアレ。」
「どう考えてもあれですよね。えーっと………森部蛍、ちょっとその紙見せて下さい。」
「そうそう、アレアレ。ベント。」
「ベン・トー?」
「違う違う半額弁当争ってる奴じゃなくて。戻らない奴。」
「ああ。納得です。これはもう、どうにかしなきゃいけない感じだなあと、藍原愛鶴は感じております。主に68番目からの通信で、強く強くそう感じております。」
「68番目……そうそう。そのライダーバトルをしてるのがサクラガミって奴なんだよ。」
「わるいやつですね。トレーラーにも書いてありました。」
 トレーラーにはこう書いてあった。
丘の上には、ひときわ大きく古い桜の木があった。そこには「サクラガミ」が棲んでいて、月の夜、その桜の下で愛を誓ったカップルは幸せになる、と他愛もない噂話の種にされる。そんな桜の木だ。しかし実は、その丘に棲む「サクラガミ」とは妖魔であり、桜と噂話を餌に、夜な夜な人を食らうのだった。
 何を今更感が非常に強い。
「あと、導入部分でも悪い奴ムーブをしてましたね。」
 まだ導入は終わっていない。というか話が進んでいない。
「デコトラにでも『サクラガミ』って筆文字で書いてあったのか?」
「爆走デコトラ伝説2は面白かったですね……!じゃないです。話を戻しましょう。森部蛍。68番目も怒ってるって言ってます。」
 68番目ホント自重して下さい。
「まずはそのめちゃんこワルなサクラガミ、どうしますか?」
「実はさー、そのサクラガミってのが妖魔なんだけど……ってそういうのはいいか。」
「今結構重要な部分を流しましたよね。」
「俺と一緒に行ってくれないか?」
「それは……いいですよ、森部蛍が、そういうなら、藍原愛鶴はついて行きますよ。」
「実はうちの道場の門下生が浮かれて神隠しにあってさー、師匠からどうにかしてこいって頼まれたんだよな。」
「それガチなやつじゃないですか。俄然藍原愛鶴は手伝いますよ。」
「頼んでおいてアレだけど、本当にいいのか? ぶっちゃけ危ないぞ?」
「藍原愛鶴としては、森部蛍が一人で行くほうが心配です。ちゃんとお手伝いします。覚悟しろー。」
「覚悟しろー、サクラガミー。いやまぁ、二人で行かないと出てきてくれないんだけどな。」
「でしたね。カップル的な感じで行かないといけないとハンドアウトにも書いてありました。」
「そうそう、月の夜に桜の下でなんとかするとなんとかかんとかって奴。」
「よし。森部蛍。今から藍原愛鶴とドキドキ妖魔キラーズナイトツアー〜ポロリもあるよ〜に出発です。」
 首とかがポロリする。
「ていよくいうと、命懸けのおでぇとです。」
「おでぇと……ま、今日はやめとこうぜ。風向きが変わったから、雨が降る。」
「わかりました。では明日ですね。お弁当を作っていきます。藍原愛鶴お手製です。」
「俺も準備とかあるしなー。今日はとりあえず帰って、明日の夜に桜の丘集合で。」
「森部蛍。喜ぶといいです。女の子お手製です。ラブワイフベントゥです。」
「あー、じゃあ晩飯抜いておくわ。楽しみにしてる。」
「わかりました。では明日夜に。夜にです。」
 ということで、二人は明日の夜、サクラガミ退治に出かけることになった。
「んじゃー、また明日なー。これ貸すから、明日返してくれよな。」
 と言って、蛍は傘を渡して走り去る。そして降る雨。愛鶴はというと、その傘をちょっと見つめて小さくため息をつく。しとり、と降り始めた雨を校内から見つめながら一言
「……覚悟しろー。」
 誰にともなくつぶやくのだった。
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